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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)397号 判決

しかし原判決の認定した諸事情からすれば、上告人は昭和一九年五月母シヅが死亡すると共に後見人の許に引取られた際に一応旧住所との生活関係を断つに至つたものと解するのを相当とする。又上告人が孤児として住所を離れなければならなかつた事情が、就学等の場合よりも更に切実なものがあつたとしても、一時的にその住所を離れたものと認められない本件のような場合には、在村地主の範囲を同法施行令一条に掲げる場合に限定しようとする自創法四条二項の趣旨にかんがみ、同条を類推準用すべからざることは明であるから論旨は採用できない。

同第二点について。

原判決が確定したところによれば、本件農地の賃貸借が上告人主張のように合意の上解約された事実はなく上告人が昭和二一年稲作から本件農地を耕作しているのは不法にこれを引上げて耕作しているというのであつて、自創法六条の二第二項四号にいう買収申請人の生活状態との比較は小作地の引上が適法に行われたことを前提とするものであるから、本件の場合に右規定の適用がないこと明である。論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)

上告代理人徳田禎重の上告理由

第一点

一、原審判決摘示の通り上告人は原審に於て、自作農創設特別措置法第三条第一項及び同第四条第二項、同施行令第一条の趣旨から考へ上告人を不在地主と解釈するは非倫理的な解釈であり、又生活状態が買収請求を為したる者の生活状態に較べて悪るくなるのでありと主張したるに対し、原審は「昭和二三年当時十四歳の少年であり、その姉妹(当時十六歳と十二歳)と共に月野村の後見人関盛吉宅に引取られ生活して居ることを認めながら」農地との距離が約二里半位ありて控訴人自ら耕作することが困難であること、又本件農地の外に田畑約六反二畝余を所有して居つたが他に売却したことを理由として右の如き孤児を不在地主として其所有地を買収するも非倫理的の行政行為にあらず、却て自作農創設特別措置法の立法の趣旨に適合する旨説示せられ居るも、1.の控訴人自ら耕作することが出来ないからこそ孤児三名が他村に引取られ(其所有地を買収前昭和二十一年度から)後見人に於て耕作し、以て孤児等の生活資料にして居つたのであるから、距離の長短及孤児等の自ら農耕し得ないことを以て買収して差支ないとの理由にはならないのである。尚ほ本件の如き場合を検討するに法は不可能を国民に強ゆるものにあらずとの法理があるならば、原審が認定せらるゝ通り孤児等自ら耕作して生活することが出来ないから、祖先伝来の家屋敷に居住することも出来ず後見人宅に一時引取られたのである、即ち孤児等が不在地主の地位を免れることは到底出来ないのである、斯かる場合孤児等が墳墓の地を離れたからとて其所有地を没収同様に買収するは、孤児等は其土地を離るゝな離れたら没収するぞと国民に不可能を強ゆるも同然であつて、非倫理的の行政行為であると謂はなければならぬ、自作農創設特別措置法第四条第二項には「前条第一項の規定の適用については、農地の所有者で第二条第四項に規定する特別の事由(令一)に因り、其所有する農地のある市町村の区域内に住居を有しなくなつたものはこれは当該市町村の区域内に住居を有するものとみなす」又施行令第一条第二号には「就学」と明瞭に規定してあつて、就学、疾病等に依つて止むを得ずして住居を離れた場合之を不在地主と解釈するは、原審の説明せらるゝ自作農創設特別措置法の立法趣旨よりも法は国民に不可能を強ゆるものにあらず、又就学等の場合之を不在地主と看るは倫理観念に反するから是等の場合を除外したものと解釈するのが正当であると信ずる、仍而前記「就学」よりも事情重く、すなわち孤児等自分等が耕作出来ず生存権行使の為め他村の後見人に耕作せしめ以て生存を維持し、且つ義務教育を受くる為めに其住所を離れる本件の場合は当然前掲法第四条第二項を準用して不在地主にあらずと解釈して、上告人の請求通りの判決を為さるべきに不拘、之を排斥せられたるは法の適用を誤つた違法があるものと信ずる。

第二点

一、上告人は原審に於て、自作農創設特別措置法第六条の二第二項第四号に該当することを主張したるに対しては排斥せられたる理由明確ならざる違法あるのみならず、若し上告人の後見人関盛吉が田畑約二町六反歩を耕作し同居して生活して居るから小作人の生活状態より悪しからずとの御判断ならば、生活状態の比較の対照を誤つて居るのである、後見人は単に管理人であつて、上告人の財産状態と管理人の財産状態は別個のもので永く管理人の財産に頼り得るものではなく、原審判決の認めらるゝ如く父母生存中の負債の為め田畑は売却せられ祖先伝来の家屋敷に帰りて生活せんとするも本件田地の外一俵の米を作る田畑なき有様であるから、本件買収当時現に後見人と共に耕作し居りたる本件田地を買収され小作人に売渡され、其占有を奪はれた場合は上告人将来の生活状態が著しく悪くなることは明瞭であるに不拘、原審が後見人の財産状態を摘示して上告人の主張を排斥せられたが、右の如き場合は小作人と上告人の生活状態を比較説示せらるべきものと信ずる、上告人が後見人宅に引取られ生活するのは一時的の状態であつて、現に上告人は十八歳で義務教育を終え、其姉妹と共に祖先伝来の家屋敷に帰り耕作に従事し、以て祖先の祭祀を為すべく準備中であるが、本件土地の所有権を喪う場合は一俵の米も生産する見込がないのである、斯かる窮況を招いた原因は孤児等自分達の責任では毛頭ないのであつて、不治の病に犯された父母の責任である、而して法第六条の二第二項の第四号の生活状態の比較は小作人と上告人の生活状態を比較して説示せらるべきに不拘、之を説示せられないのは審理不尽又は判決に理由を附せられない違法があるものと信ずる。

以上

第一審判決の主文および事実

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十三年一月三十日別紙目録記載の土地につき為した裁決第四九一号はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として主張した事実の要旨は、

訴外末吉町農地委員会は昭和二十二年十一月十四日原告所有の別紙目録記載の農地につき訴外田崎勇吉の遡及買収の申請に基き同地が昭和二十年十一月二十三日現在に於て不在地主たる原告所有の小作地として買収計画を定めたので原告から同委員会に対し異議の申立をしたところ棄却されたので更に被告に訴願をしたが被告は昭和二十三年一月三十日裁決第四九一号を以て右末吉町農地委員会の決定を正当と認め本件農地は自作農創設特別措置法(以下法と略称する)第三条第一項第一号該当農地として買収すべきものであるから右訴願を棄却する旨の裁決を為した。しかしながら本件農地はもと原告の先代亡徳満栄次の所有で同人が耕作していたところ、昭和十四年八月二十七日同人の死亡により原告がこれを相続し、現在原告の所有地であり栄次死亡後は原告の母シヅが引続き耕作し原告等を扶養していたが、シヅは同十九年初頃から疾病となり本件農地を耕作することができなかつた為同年四月頃已むを得ず一時訴外田崎勇吉に同農地を小作させるにいたりその後原告は昭和二十年十一月(同月二十三日以前)に右勇吉との本件賃貸借契約を合意解約し、同二十一年水稲作から原告が幼少であつた為その後見人関盛吉において右農地を耕作している。したがつて本件農地は昭和二十年十一月二十三日現在において原告の自作地であり小作地ではない。

仮りに右合意解約の主張が容れられないとしても本件農地はもと原告の自作地でありそれを原告の母が前記のように疾病のため一時他人の耕作の業務の目的に供したもので、原告は昭和二十一年水稲作から同人が学齢児童であるためその後見人を介して現に耕作しておるから末吉町農地委員会としては自作農が近く自作するものと認め且自作を相当と認める農地として法第五条第六号に該当する農地として買収すべきではないのにかゝわらず同農地委員会がかかる事実を顧みずこれにつき買収計画を定めたのは違法である。

仮に右主張が容れられないとしても、本件農地の賃貸借契約は昭和十九年四月頃締結されたものであるからそれは臨時農地等管理令の第七条ノ二に従い地方長官の許可を受けなければならないのに右契約の締結についてはこれが許可を受けていないから同令に違反するものとして右賃貸借契約が無効であることは明らかである。それで勇吉が昭和二十年十一月二十三日現在に於て本件農地を耕作していたとしてもそれは正当な権限に基くものではなく法第二条に所謂小作農と謂うことができない。したがつて法施行令第四十三条により小作農として買収申請を為すことはできないそれで同人の申請にもとずき末吉町農地委員会が本件農地の買収計画を定めたのは違法である。

更に前記主張の全てが理由ないとしても前記のような事情の下に他人に耕作させた農地をその所有者の親権者死亡後、その後見人に於て遺児等養育の為に小作人からこれが返還を受け同後見人が昭和二十一年度から同二十三年度迄耕作している農地につき小作人から遡及買収の申請を為すのは信義に反する所為であるからこれに基き買収計画を定むるのは違法である、なお被告の答弁に対し本件畑を田崎勇吉に賃貸したのが昭和十七年頃からであるとの事実原告の自作を相当としないとの点についての被告の主張事実はいずれもこれを否認する。

以上のように末吉町農地委員会の定めた本件農地の買収計画は違法であるからこれを適法として原告の訴願を棄却した被告の裁決もまた違法で当然取消されるべきものである。よつてこれが取消しを求めるため本訴に及ぶというにある(立証省略)。

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め

答弁として陳述した事実の要旨は、

原告主張の事実中訴外末吉町農地委員会が田崎勇吉の遡及買収の申請に基ずき昭和二十二年十一月十四日原告所有別紙目録記載の農地につきこれが昭和二十年十一月二十三日現在において法第三条第一項第一号の不在地主の小作地に該当する農地として買収計画を定めたこと右に対し原告から異議の申立があつたが同委員会はこれを却下したところ更に原告から被告に対し訴願の申立があつたので、被告は昭和二十三年一月三十日裁決第四九一号を以て原告主張のような理由で訴願を棄却する旨の裁決を為したことはこれを認めるがその余の事実はすべてこれを争う。すなわち、本件農地中畑は昭和十七年頃から田は昭和十九年水稲作からいずれも原告の親権者亡徳満シヅが訴外田崎勇吉に対し賃貸しそれ以来同人において昭和二十一年五月十一日原告の後見人より強制的に取上げられる迄耕作していたものである、右取上当時小作人田崎勇吉は右田地の中二枚には麦を植付け、他にはレンゲ草を蒔き、畑地には昭和二十一年三月頃迄蔬菜を植付け、昭和二十一年以降も耕作を継続する筈であつたところ、原告の後見人関が右勇吉の意に反し同地を鋤返し耕作するにいたつたものであり、原告が主張するように昭和二十年十月初頃合意解約により本件農地の賃貸借契約が解約されたものではなく昭和二十年十一月二十三日現在においては小作地であり自作地ではない。よつて末吉町農地委員会としては同日現在の小作人である田崎勇吉の自作農創設特別措置法施行令第四十三条の買収請求にもとずき同法附則第二項に従い遡及して買収計画を定めたのであり何等違法の点はない。なお本件農地の賃貸借は原告主張のような法第五条第六号にいう一時賃貸借には該当しない。仮りに右賃貸借が同法条にいう一時賃貸借であつたとしても末吉町農地委員会としては自作農である原告が近くこれを自作するものと認められ且その自作を相当と認めるに足る客観、主観の条件が具備するときに於てのみ買収から除外すべきものでありその条件は厳格に解されなければならない。よつて同農地委員会としては本件土地は原告において自作するのではなく原告の後見人関盛吉において耕作するものであること右賃貸及び取上げの事情、増産状態、原告が幼少にして就学中なる事実その他家族事情、原告の住所と本件土地との距離、原告がその所有にかゝる末吉町所在の田地六反余を昭和二十一年三月中不法売買した事実並びに小作人の経営面積家族数、生活状態等諸般の情状を綜合して原告の自作を相当と認むべきではなく、買収から除外すべき農地ではないと解したのである。次に原告は田崎勇吉に対する前示賃貸借は臨時農地等管理令第七条ノ二に違反するから当然無効であると主張するが、かりに右賃貸借が同令に違反し地方長官の許可を受けていなかつたとしてもそれが当然無効であるとの根拠もなく、同令の廃止後も同一耕作権が存続された本件に於て独り原告のみ無効の利益を主張する条理もなく、本件遡及買収の請求が法にいう小作農でないものの請求に基くものであるとはいえず又本件買収の請求が信義に背反する事実も存在しない。以上のように原告の主張はすべて理由がないから末吉町農地委員会が定めた本件農地買収計画には違法の点はなくこれに対する原告の異議申立を却下した同委員会の決定は適法でありこれに対する訴願につき昭和二十三年一月三十日被告がこれを棄却する旨の裁決を為したのも適法でその間毫も違法の点は存在しない。

というにある(立証省略)。

第二審判決の主文、事実および理由

一、主  文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は原判決を取消す。昭和二三年一月三〇日被控訴人が別紙目録記載の土地につきなした裁決第四九一号はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、控訴人が本件農地の所在地を離れたのは控訴人が孤児であつて義務教育を受けるため已むなく他村居住の後見人宅に引取られたのであるから右の場合は自作農創設特別措置法第三条第一項第一号及び同第四条第二項同法施行令第一条の法意から考え控訴人を不在地主と認めることは非倫理的な解釈であり、又控訴人は近く義務教育を終え右農地所在地に復帰しようとしても本件土地の外田地なく本件土地を買収せらるゝにおいては同法第六条の二第二項第四号規定の如く生活状態が買収請求をした者の生活状態に較べて悪くなるのであると附加陳述した外原判決の摘示事実と同一であるから、それをここに引用する(証拠省略)。

三、理  由

控訴代理人の主張する原判決摘示事実に対する当裁判所の判断は原判決中八枚目表二丁目の「自分が知らない間に」とあるを「訴外田崎勇吉が知らない間に」と訂正する外すべて原判決のこれに対する説示と同一であるからこれを引用する。次に控訴代理人の当審における主張事実について按ずるに原審証人加藤正義、当審と、原審の証人関重雄の証言により認められる控訴人は被控訴人が本件土地につき裁決した昭和二三年当時十四歳の少年でありその姉妹(当時十六歳と十二歳)等と共に隣村月野村の後見人関盛吉宅に引取られ生活しており右住居から本件農地迄は約二里半位の距離にあり右農地を控訴人自ら耕作することが極めて困難であること、控訴人は本件農地の外に昭和二一年頃田畑約六反二畝余を所有していたけれども当時他に売却したこと、控訴人の後見人関盛吉は田畑合計約二町六反歩を所有しており現に控訴人等と共に農耕に従事していること等の事実と自作農創設特別措置法の立法の趣旨が耕作者の地位を安定せしめ、自作農を急速に創設し、農業生産力の発展を図る目的にある点とを併せ考えると、控訴人がその主張のように孤児でありそのため他村居住を余儀なくされたものであつたとしても本件農地につき末吉町農地委員会が法第三条第一項第一号該当農地として買収計画を定めたことは已むを得なかつたことでありその間違法の点は認められないしその措置は主張のように必ずしも非倫理的な解釈とも思われない。また前認定の諸事実を綜合すると控訴人が本件農地を自作するため早急に本籍地に復帰するものとも認められない。従つて控訴人の右主張も理由がないものといわねばならぬ。

以上の次第であつて控訴人の主張はすべて理由がないから末吉町農地委員会がなした控訴人の異議申立却下決定に対する訴願を棄却した被控訴人の本件裁決もまた適法であつて、これを違法としてその取消を求める控訴人の本訴請求はこれを容認するに由ないものであるから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

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